『ザ・ゲーム 30デイズ』 あるいはリア充を極めるための30日間のレッスン

あなたは全世界で旋風を巻き起こした『ザ・ゲーム』というアメリカ発のナンパバイブルを知っているだろうか?著者の二ール・ストラウスがアメリカのあらゆるナンパ師コミュニティを渡り歩き、数々のグル(師匠)に師事して女性を口説く技術を身につけていきながら、「スタイル」という名のモテ人格を築き上げて一流のナンパ師になっていく様がドキュメンタリータッチでリアルに描かれている。作中にはパリス・ヒルトンやコートニーラブなど実在のセレブたちがナンパされる女性として登場することでも話題を呼んだ。
前半部分ではスタイルのナンパ師としての成長ぶりが主なコンテンツになっている。数々のトリッキーなテクニックを駆使して次々と女性を口説き落としていく。相棒のミステリーとヨーロッパにナンパ遠征に行き、数々のナンパ師ワナビーたちを指導育成し、大きなナンパコミュニティを築きあげていく。しかし、後半はオンリーワンの恋人リサと出会いナンパに別れを告げることを決意する。相棒ミステリーはナンパのしすぎでメンタルがおかしくなり、ナンパコミュニティは協調性を失い崩壊の道を辿る。一年程まえに読んだときは、このナンパの光と影の双方にフォーカスを当てたストーリーがたまらなく面白かった。一番驚いたのはニール・ストラウスという人物は一見するとただのハゲだチビのオッサンだということだ。ナンパは外見だけに作用されるわけじゃない。トークスキルでいくらでも挽回できるのだということを世界レベルで彼は示してくれた。


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そして、その続編が今回邦訳で出版されたという。


ザ・ゲーム 【30デイズ】 ――極上女を狙い撃つ (フェニックスシリーズ)
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名付けて『ザ・ゲーム 30デイズ』
厳密に言うと本書は『ザ・ゲーム』の続編ではない。『30デイズ』では前作よりもストーリー性が影をひそめ、より口説きのノウハウ部分にフォーカスを当てられた出来になっている。当ブログではよく言っていることだが、言語化されたノウハウはただそれだけでは機能しない。ノウハウを現実のものとするためには「身体が記憶する」フェイズを必ず踏まないといけない。そういう思いから、自分はルーティン稽古を始めた。要するに直接相対することで相手の身体に働きかけてノウハウを叩き込んでいく。だけどこの手法は広くノウハウを伝えるという意味では非常に効率が悪い。著者も世界中で講習を続けていくうちにそう思ったのだろう。そこで今回著者がとったもう一つの処方箋がワークシートだ。
ワークシートというのは、ノウハウを身につけるためになすべきことがより細かく具体的に言語で指示されたものである。モテるために「明るく話せ」というのがノウハウならば、明るく話すためにはどういうプログラムを積めばいいのか。大きなガイドラインにそって小さな指示が積み重ねられている。これがワークシートだ。小学校の時にやった夏休みの宿題を思い出してほしい。漢字ドリルや計算ドリルなど、一体なんの役に立つのかはわからないまま、とにかくひとつひとつのタスクを作業形式で消化していくことで、2学期になるといつの間にか学力がついている。それをモテについてもあてはめてみようかということだ。本書のコンセプトは、まったくモテない一人の男が30日のプログラムを通じて、モテ男に変化していくというものだ。読者はそれを愚直にこなせばいい。一人でもできる。著者は実際の講習では狭く深い射程を、ワークシートという本書の形式では広く浅い射程を使ってモテない男性たちに働きかけた。そこでは外見に関する改善方法から会話、メンタルについてまで詳しく指示が出されている。例を挙げてみよう。


1日目:見知らぬ人5人と世間話をはじめる。
別に口説くわけではないにもかかわらず本来ならばこれは1日目のタスクとしてはハードルが高い。けれども本書では見知らぬ人と話ができない心理の壁をピックアップしてひとつひとつそれが幻想であることを説いてくれている。何を話せばいいのかわからない人には具体的なトピックも用意してくれている。いたれりつくせり。メンタルがどんな状態であれ、とにかく話しかければ1日目はクリアとなる。


5日目:イメージチェンジを図る。
「イメチェンを図って外見を改善せよ」とは多くのモテ本が口を揃えて説くところではある。でもどのように?本書では身だしなみチェックリストといって10以上の項目から具体的な外見に関する指示が出されている。


7日目:ツカミの台詞オープナーを用意する。
ただ話しかけるだけだと、会話はつながりにくい。やはり最初はインパクトのある切り込みをいれていく必要がある。オープナーというのはそういうインパクトをもったツカミのことだ。これまで実用に耐えてきたたくさんのオープナーが用意されている。


12日目:自分の美点を相手に伝える。
みんな大切なことを忘れていることが多い。それは自己アピールだ。自己開示をすることが大事だとはよく言われていることだ。けれども本当に大事なのは開示のやり方なのだ。「お仕事何されてるんですか?」と尋ねられて「ただのサラリーマンです」と答える人間があまりにも多い。サラリーマンを否定しているわけではない。でも、「ただの」って何だ。本書では具体的に自分を魅力的にみせるアピールの仕方が指示されている。


15日目:コールドリーディングの技術を身につける。
コールドリーディングというテクニックを聞いたことはあるだろうか。それは本書の言い方を借りるならば、当たり前のことをさも大発見のように相手に聞かせるテクニックだ。これを使うと女の子に自分を強く印象づけることができる。さらに使い時や使用の際の細かいテクニックを身につけることで、さらに効果的なフレーズとすることができる。


16日目:人々をほめていい気分にさせる。
ここで意識の改革が行われる。みんな自分がモテたい、チヤホヤされたいと思っている。だからダメなんだとニール・ストラウスは言う。どのような他者に対してもサービス精神を発揮するメンタリティを獲得したとき、結果的に周りからチヤホヤされるようになり、セックスも手に入るようになる。


26日目:今まで覚えたノウハウはすべて忘れる
これはちょっとしたサプライズだった。そしておそらくかなり大事なことだ。自分が知っている人の中にもこれを成し遂げた人はほとんどいない。多くの人は何かしらの形でノウハウにしがみついてしまう。けれども彼女たちと長期的な関係を結んでいくならば、いつかはアドリブで会話しなくてはいけない。本書はモテ本であるという側面の他にライフスタイルをよりよく変えるという側面もあるため、このような指示が出される。


そして、ラストの30日目にしてどのようなミッションが待っているのだろうかとドキドキしながら読み進めていくと、出ました!


30日目:ディナーパーティーを主催する。

これは正直目から鱗でした。だって30日を通じてセックスがでてこないですから。セックスは31日目以降におあずけのようだ。合コンや街コンが主戦場の日本人にとってパーティの主催は少しハードルが高いかもしれないが、それでもこのゴールは個人的にはかなり合理的であるように感じた。結局、アメリカのナンパの発想には、「集団の中で優位に振る舞えば必然的にモテる」というソーシャルダイナミクスの理論が根本にある。というわけで、本書はモテ男になれと説いているのではない。社会的強者、つまりリア充になれと説いているのである。人間は社会的な生き物なのだ。いつも誰かと誰かを、また自分と他者をくらべてしまう。目を凝らして解像度を上げると序列の世界はくっきりと見えてくるようになるだろう。そういう序列の世界で、人はいつでも選ぶ側であると同時に、「選ばれる」と「選ばれない」の瀬戸際にもいる。誰だっていいものを選びたい。そう考えると自分たちは本当に残酷な世界に生きているように思う。
実際著者はナンパを生殖戦略の一環として捉えている。つまり遺伝子視点での論理を最も重視している。そのうえで、ナンパとは自分たちの遺伝子に内蔵されたナチュラルな生殖戦略を後から上書きすることだというふうに捉えているのだ。だから自然なことをしていてはいけない。自分にとっても不自然なことをやっていかないといけない。有名な「ピックアップアーティストは常に例外でなくてはならない」という名言にはそのようなナンパ師たちのBE UNNATURALという覚悟が反映されている。モテない人間がモテるようになろうとすること、これは神をも恐れぬ行為なのだ。人は生得的に運命を決められた存在ではない。なんのために大脳があるのだ。大脳は挫折と成長を繰り返し生殖戦略をより適した形にアップデートし続けていくためにこそある。そうすれば女性は自然と自分の周りに集まってくるようになるだろう。


ちなみに

今回本書30デイズはパンローリング社から献本頂きました。というか、厳密に申し上げると、献本をお願いしに図々しくも出版社に直接おしかけるという新しい荒技を繰り広げてしまいました。快く承諾してくださった担当の編集者の方には厚く御礼申し上げます。
よろしければ前作の『ザ・ゲーム』もどうぞ。文句なしの名著です。毎週末クラブに繰り出したくなることでしょう。


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